なぜ「上手くなりたい」と思うのでしょうか?
レッスンの中で「もっと上手くなりたいんです」とおっしゃる方は少なくありません。
それはとても素敵な気持ちだと思います。
けれど、少し立ち止まって「何のために上手くなりたいんだろう?」と、自分に問いかけてみるのもいいかもしれません。
「本番で思いきり演奏したい」
「もっと音楽が楽しくなりそうな気がする」
「人に伝わる演奏がしたい」
「自分らしい音を出したい」
“上手くなる”という言葉の先には、そんな想いや願いが隠れているように思います。
音が届いたと思えた瞬間に
学生時代、成績優秀者のコンサートに出演したとき、
演奏後に「とても引き込まれるような演奏だった」と声をかけていただいたことがありました。
それまでにも演奏の経験は重ねてきましたが、
このときは、「自分の音が“誰かの心に届いた”という実感」がこれまで以上に強く心に残ったのを覚えています。
それは、ただ“正しく吹く”ことから、
「音を通して何を伝えたいか」「どんなふうに響かせたいか」を
より深く考えるようになったひとつのきっかけでした。
音を出すことと、音を届けることのあいだには、
想像以上に大きな違いがある——そんな気づきを得た瞬間でもありました。

上達とは、「できるようになる」だけじゃない
練習を重ねると、できることが少しずつ増えていきます。
指がまわる、音が伸びる、息が安定する。
そうした技術的な変化ももちろん大切ですが、私はそれ以上に、
「音楽をどう聴くか」
「どんな風に感じるか」
「今の自分の音に何が足りていないかに気づけるようになること」
こうした感覚が育っていくことが、「上手くなること」の一部ではないかと思うのです。
それはつまり、“できるようになること”だけでなく、“見えるようになること”。
音楽を続ける今の自分にも言い聞かせていることだったりします(笑)
練習は「変化を見つける時間」でもある
「上手くなりたい」と思うと、どうしても“成果”にばかり目がいきがちです。
「今日も全然うまく吹けなかった」
「昨日できてたのに、今日はできない」
そんなふうに、落ち込んでしまう日もありますよね。
でも私は、そういう日こそ「気づけたこと」に目を向けてみてほしいと思っています。
息が乱れたこと、緊張で音が詰まったこと、思ったより音程が下がったこと。
それらは「できなかったこと」ではなく、「気づけたこと」。
練習とは、そうした「観察」の積み重ねでもあると思うのです。
練習の目的を意識してみよう
「上手くなりたい」と思っても、どこから手をつければいいか分からない……。
そんなふうに感じる日もあるかもしれません。
・今どこでつまずいているかを明確にすること
・「なぜこの練習をしているのか」をはっきりさせること
・練習の順番や意識するポイントを整理すること
レッスンでは、そういったポイントを一緒に整理していきます。
やるべきことが見えてくると、練習はぐんと前向きなものに変わっていきます。

「できた」より「感じた」を集める
私は、「上手くなる」とは、“音がきれいになること”だけではないと思っています。
“今日はうまく吹けなかったけど、息の流れは前より意識できた”
“音程がズレたのは、あの姿勢のままだったからかもしれない”
“まだ音が細いけど、響きの方向が見えてきたかも”
そんなふうに、「できた」こと以上に「感じられた」ことに気づけるようになると、
練習の中にある静かな喜びが見えてくるように思います。
上達とは、“理想に近づくこと”だけではなく、
“今の自分の感覚と向き合う力が育っていくこと”なのかもしれません。
おわりに~「上手くなりたい」は、音楽を愛する気持ちの証
「もっと上手くなりたい」と思うのは、
きっと、音楽が好きだから。
もっと楽しみたい、もっと深く知りたいという気持ちがあるから。
だから私は、「上手くなりたい」という言葉の中には、
その人なりのやさしさや情熱が込められているように感じます。
音楽に正解はありません。
技術を磨くことも、感性を育てることも、どちらも大切です。
だからこそ、自分のペースで、自分の音と向き合う時間を、
これからも大切にしていけたら素敵だなと思います。

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