大人になってからの練習時間の作り方

レッスン

「練習したいのに、できない」──その気持ち、とてもよく分かります

日常に追われていると、「今日は練習しよう」と思っていたはずが、
気づけば夜になっていて、楽器に触れられなかった——そんな経験はありませんか?

私も、会社員として働いていた時期に、何度もそんな日を過ごしました。
「練習できなかった」ことに自分自身でプレッシャーを感じてしまう日もあったんです。
できない自分に焦って、でも行動に移せない。
そんなジレンマのような感覚が、胸の奥にずっと引っかかっていました。

「まとまった時間でなければ意味がない」とは限らない

私自身、なるべくしっかりと時間を取って練習に向き合いたいという気持ちは、今もずっと変わりません。
でも、時間が思うように取れない日々の中で気づいたのは、
「短い時間でも、音と向き合うことで感覚が育ち続ける」ということでした。

たとえばロングトーンを1本だけ吹いて終わる日もあれば、
指の動きをゆっくりさらって終えるだけの日もありました。
それでも、“今の自分の音”に触れておく時間が、
音との距離を保ち、練習に向かう感覚をつないでくれていたように思います。

時間 時計

 時間を「つくる」のではなく、そっと「置いておく」

私はある時期から、“練習の時間をつくる”ことよりも、
“日々のどこかに練習を置いておく”という感覚を大切にするようになりました。

まとまった時間をとるのが難しいときでも、
「この時間なら少しだけ吹けそうかな」と思える場面は、日々の中にふと現れることがあります。

たとえば——
・朝、洗濯機を回しているあいだにロングトーンを1本
・お昼のあとに、メロディをひとフレーズだけ
・帰宅してから、夕飯の前に指の運指をさらりと確認
・お風呂あがりに、タンギングの感覚だけを確かめてみる など

もちろん、すべての時間帯が誰にでも当てはまるわけではありませんし、
生活のリズムによって練習の形はさまざまだと思います。

でも、「今できることだけやってみよう」と思えるときがあるだけで、
練習に向かう気持ちのハードルが、少しやわらかくなるように感じています。

 練習は「上達のため」だけではなく「整える時間」

あるとき、「これだけ練習したのに、なぜ本番でうまくいかなかったんだろう」と悩んだことがありました。
その時は、「練習=成果」でなければ意味がないと、どこかで思い込んでいたんですね。

でも今は、練習とは「音を整える時間」であり、
「自分の身体や心の状態を知る時間」でもあると思っています。

音が出づらい日には、息が浅くなっていたり、肩に力が入っていたり。
他に原因がありました。
練習を通して“整っていく感覚”を得られることが、次につながっていくように思います。

フルート演奏

音が整わない日も、自分の感覚を責めないでください

「今日は音が乗らなかった」
「思ったように吹けなかった」
そんな日もあると思います。

でも、そんな日こそ、「今日の練習で気づけたこと」が何かあったかもしれない、と振り返ってみるのもいいかもしれません。

たとえば、「今日は息の流れを少し意識できたかも」とか、
「うまくいかなかったのは、こういう癖があるからなのかな」とか——
そんなふうに、自分の中に生まれた小さな気づきに、そっと耳をすませてみるような感覚です。

練習の中で、立てた目標に届かなかった日があっても、
自分を観察する力や、“できない原因を見つけられた”という経験も、必ず次につながっていきます。
音楽は、毎回うまくいくことよりも、そこにどんな姿勢で向き合っていたか——
その積み重ねが、やがて音の深さや豊かさにつながっていくと私は信じています。

練習できなかった日も、音楽とつながっている

今日は吹けなかった——それでも、心のどこかでフルートのことを考えていた。
それって、もう「音楽に触れていた時間」だと思うんです。

好きな曲を思い出したり、演奏会の記憶がふとよぎったり、
頭の中で音楽をなぞってみたり——そういう時間も、ちゃんと“音楽している”時間です。

練習できなかった日も、「音楽を思い出せた自分」に、そっとOKを出してあげてくださいね。

フルート演奏

続けたいと思えている今こそ、音と向き合えるとき

教えることも、演奏することも、どちらも責任と愛情をもって続けていきたいと、日々感じながら音楽に取り組んでいます。
だからこそ、日々の中でほんの少しでも音と向き合える時間を大切にしたい。
その気持ちは、きっとこれからも変わることはありません。

同時に、レッスンに通ってくださる方お一人おひとりが、
それぞれの生活や環境の中で、無理なく・心地よく音楽を続けられることを、私はとても大切に思っています。

たとえ少しずつでも、たとえ続かない日があっても、
「続けたい」と思えていることそのものが、音を変えていく力になると信じています。

焦らず、自分のペースで。
今日のひと吹きが、きっと明日の音に、そっとつながっていますように。

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